20111013

2011年10月13日 木曜日 by かわもと眼科院長

今朝はあさからぱらぱら雨が降ってます。

 

昨日こんな患者さんが来られました。

「私は脊柱管狭窄症で,近くの鍼灸師にみてもらってる。そこの針の先生が『あなたの脊柱管狭窄症は瞼が下がっているのが原因だから,眼科に行って,手術をしてもらいなさい』といわれたので来ました」と。早速診察してみると瞼には異常なく,もちろん眼瞼下垂も全くありません。その旨を伝えると,「そんなことはない。私は針の先生を信じています。針の先生が手術してこいと言ったのだから手術してください」といって,私の話には耳を傾けない状態でした。何度かの押し問答の末,憤慨して帰られました。

さて,手術をするかどうか?手術をした方が良いか?を決めるのは誰でしょうか?手術をするかどうかを決めるのは最終的には患者さんです。そして手術をした方が良いかどうかを決めるのは(外科)医師の仕事です。医学的・医療的に確立された手術に関して,患者さんと(外科)医師以外の人間が介在する余地は原則的にありません。件の針灸師は,「目が原因の1つかもしれないから眼科で一度診てもらったらどうか?」ということはあるでしょうが,「手術をしてもらってこい」という資格は鍼灸師には無いはずです。

今回のようなことは今までに何度も経験してきました。大学病院に勤務していた時には,糖尿病網膜症でレーザー手術が必要な患者さんにその旨を伝えると,「通っている針の先生が,目の手術をしたら目がつぶれると言われたので,レーザー手術はしません」と言って来院が途絶え,約半年後に硝子体出血と網膜剥離を起こして,社会的失明の状態となりました。また以前に勤務していた総合病院でも同じようなことがありました。もともと古い黄斑変性症がある白内障患者さんの手術をした際,術後の見え方が期待したほど上がらない(もちろん,術前に眼底疾患があるから術後の見え方も格段に良くなる訳ではありませんよと説明してありますが)ため,行きつけの整体師のところで整体師の先生に相談したところ,「それは手術の失敗だから,もっと大きな病院に行ってもう一回手術してもらいなさいと言われたので,紹介状を書いてください」と言って来られたことがあります。この患者さんは今でも自分の目の見え方が悪いのは手術の失敗が原因だと思っていると人伝えに聞きました。自分の病気を受け入れる機会をこの患者さんは失ってしまったことになります。

このような「悪質な」鍼灸師や整体師に巡り会ってしまうというのは,その患者さんの運命なのかもしれませんが,医者としてはやりきれない気分になります。そしてそうゆう「悪質な」鍼灸師や整体師に人生を変えられてしまった患者さんの人生を,もう一度元通りに直して(治して)上げられるだけの「人間力」を身につけていない自分がもどかしくもあります。